HUNTER×HUNTERのキメラアント編において、最強の敵キャラとして登場したのが王、メルエムでしたね。
人類最強とされるネテロが全力をもってしても擦り傷程度のダメージしか与えられず、普通のバトル漫画の戦闘としては圧倒的な力の差でネテロは敗北を喫するところでした。
戦いの最後にはネテロが体内に仕込んでいた爆弾【貧者の薔薇】による自爆によってメルエムは瀕死の重症を負うこととなりました。
プフとユピーの細胞を食べることで一時は完全に復活したかと思われましたが、最終的には貧者の薔薇に含まれる「毒」によってメルエムが死に至ることとなり一連の物語は終結しました。
貧者の薔薇の毒の特性である連鎖披毒によって、メルエムがコムギと共に最期を迎えるシーンは、HUNTER×HUNTERの物語のなかでも屈指の泣きどころの一つです。
HUNTER×HUNTERの中でも最も長編でダークでメッセージ性が強く、奇跡的な出来映えと評されるキメラアント編。
このキメラアント編がHUNTER×HUNTERの中で一番好きだと言う読者は非常に多いです。
当然僕自身もHUNTER×HUNTERの好きな編を一つ選ぶならキメラアント編を挙げるぐらい好きなストーリーです。
しかし、リアルタイムでこのお話を読んでいた当時からこの“貧者の薔薇”について僕の頭に残り続けている疑問があります。
それが今回のテーマである、「アレってなんで毒なの?放射能じゃなくて??…ていうか毒なら、キルアにすら効かないんじゃ??」
というもの。
当記事では、そんな疑問について自分なりに考えてみます。
あれは毒じゃなくて放射能じゃないのか
まず、一番大きな疑問。おそらく多くのHUNTER×HUNTER読者が同じ疑問を抱いたはず…。
爆発の威力から考えてミニチュアローズは核爆弾ですよね。
核爆弾であるならば、あの爆発のあと王や護衛軍たちを死に至らしめた症状は、「毒」ではなく「放射能」による細胞の破壊から来るものなはず。
なぜ「毒」という表現なのでしょうか。
ミニチュアローズは、人ひとりの体内に埋め込めるほどの小型の爆弾でありながら、とてつもない威力で爆発します。
作中最強格の念能力であるネテロの渾身の一撃でもほとんどダメージを与えられなかったメルエムを一瞬にして黒焦げの塊と化してしまうほどの威力の爆発。
それはもう核分裂とか核融合とか、そういうレベルの科学エネルギーの賜物であると考えるほかありません。
現実に広島・長崎に投下された原子爆弾が他の火薬爆弾と大きく異なるのが、その爆発により生じるエネルギーが桁違いに大きい事です。
そしてこういった核爆弾とセットで語られるのが「放射能」の脅威でもあります。
後述しますが、キルアには毒が効かない(本人談)という設定もあるのに、個としての生命の頂点であるはずのキメラアントの王メルエムに、そういった毒に対する耐性ぐらいはあってもおかしくないはず…。
なので、あれは毒じゃなくて放射能と考えたほうが自然だよなぁ。というのが、僕の考えです。
少年漫画の表現上「毒」とされてはいるけれど、読者がそれぞれ内心で「放射能」と捉えて読み換えることが想定されているのではないでしょうか。
もちろん表向き(子供・少年向け)には「ふーん、そういうすごい毒なんだなぁ。」 と思って読み進めても問題ないんですが、放射能として読み換えることが想定されている気がしてならないんです。
冨樫義博先生も執筆当初は「放射能」という表現にする予定だったのではないかと思います。
ではなぜ直接「放射能」という表現を避けたのでしょうか。
貧者の薔薇と東日本大震災による原発事故の影響
前述の通り、当時作者は貧者の薔薇の「放射能」によってこの闘いに決着をつける予定だったのではないかと思っています。
しかし、キメラアント編の連載時(休載中)に起こったのが東日本大震災です。津波や原発事故の影響で東日本各地に甚大な被害をもたらしました。
この震災による多くの被害のなかでも、福島第1原発の事故の影響や被災地の方々への配慮により「放射能」という表現が出来なかったのではないでしょうか。
当時あのタイミングで放射能という表現を扱うことは社会情勢的にリスクが高かったであろうことは容易に想像が付きます。
ジャンプ編集部としてもそういった表現を許容することは出来ないでしょう。
そして、貧者の薔薇の特徴として「大量の連鎖被毒者を生み出す」という点がありますが、これこそが薔薇の「放射能」を「毒」と表現せざるを得なかった最大の理由ではないでしょうか。
被災地の方々への配慮や風評被害の観点から考えて、放射性物質が連鎖的に感染する という表現は尚更出来なかったでしょう。
もしあの当時そのような表現をしていたとしたら、不適切だ配慮不足だという事で世間から袋叩きにされ、HUNTER×HUNTERは永久の休載に突入していたかもしれません…。そのぐらい被災地の方々に対する風評被害や差別の問題は深刻でしたからね。
では実際に3.11地震があった当時、HUNTER×HUNTERのストーリーはどの時点だったかを見てみましょう。
3.11時点でのハンターハンターのストーリーの動向
まず、ネテロ会長が自らの心臓を止めることで体内に埋め込んだ薔薇を起爆したシーン。
これがNo.298『薔薇』週刊少年ジャンプ2010年13号(2010年3月1日発売)です。
その後の描写で薔薇の「毒」の影響が描かれ始めたのは、メルエムの頭がズキズキと痛み出した描写ですが、これは「爆発の衝撃によってコムギに関する記憶が思い出せない事」と「薔薇の毒の影響」のダブルミーニングであり、ミスリードでもありました。
この場面がNo.303『痛み』週刊少年ジャンプ2010年18号(2010年4月5日発売)です。
その後、ゴンがゴンさん化したり何だかんだあって…
ユピーとウェルフィンが対峙するシーンでユピーが突然の鼻血。
そして、その直後のシーン
メルエムが軍儀の駒を発見し記憶の片鱗を取り戻した場面で、ズキンという効果音とともに突然の鼻血。
そしてユピー死亡…
これらの出来事が、No.310『始動』週刊少年ジャンプ2010年26号(2010年5月24日発売)でのお話です。
そしてこの回(No.310『始動』)のあと、連載がいつもの長期休載に入りました。
ここまでの時点ではまだ貧者の薔薇の毒については言及されておらず、当時リアルタイムで読んでいた読者の間では様々な憶測が飛んでいたことと思われます。
そこから一年余りが経ち、ようやく連載が再開されたのが2011年35.36合併号でした。
休載明けの1話目。そこではじめて「薔薇には毒があった」と明言され、その毒が「連鎖する非人道的兵器」であったことが明かされます。
No.311『期限』週刊少年ジャンプ2011年35.36合併号(2011年8月8日発売)でのお話です。
そうです。貧者の薔薇の爆発からこのネタばらしまでの休載期間の間に、東日本大震災及び原発事故による大災害が起こってしまったのです。
こんなのはもちろん冨樫義博先生にとっても想定外の出来事。
休載を挟んでいる間に未曾有の大災害が発生し、その影響でハンターハンターのストーリーの肝となる部分の表現を変更せざるを得なくなった…のではないかと僕は思っています。
もしかしたら原発事故がなければもう少し早く連載が再開していたかもしれないし、もしかしたら「毒」じゃなければ連鎖被毒という設定もなく、コムギの生存ルートもあったのかもしれない…と、そんなifストーリーに想いを馳せたりしています。
3.11地震があった休載明け、貧者の薔薇の性質について明言するお話がNo.311だなんてなんの因果か…。恐ろしい。
毒はキルアに効かないのか?
ところで、毒と言えばやはり気になるのがキルアの「毒じゃ死なない。」発言なんですよ。あくまでも本人談ですが…。
キルアですら毒が効かない体質を訓練によって仕上げられているのに、メルエムほどの強者が結局毒で死ぬというのがしっくり来ないんです。
薔薇の毒はキルアが許容できる毒を遥かに超える猛毒….と言われればそれまでなんですが。
だとすると、何の毒かも分からずトンパさんのジュースをがぶ飲みしてたのはさすがに不用心すぎないかキルアぼっちゃん…。
ハンターハンターの作中には結構ヤバそうな毒も色々出てくるので、それらが全部無効ならある意味キルア最強なのでは…。
シルバですら毒付きナイフで切られた時は毒抜きしてたし…。
ハンターハンターに登場した「毒」
実はHUNTER×HUNTERの作中では、何だかんだいろんなシーンで「毒」が使われています。それらを思い付く限り挙げてみます。
他にもあったかな…?これ全部効かないとしたら、キルアヤバすぎる。
キルアぼっちゃん、「毒を無効化できる念能力」とかではなく、ただ訓練して仕上げた体質ってのがヤバい才能ですね。
おわりに
キメラアント編は結局、一個生命の頂点として君臨しようとする蟻の王 vs 集団としての人類の科学力(悪意)という闘いでした。
人と蟻、それぞれを比べるとまだまだ人類側の方が圧倒的に恐ろしい存在であり、その力で蟻の王をねじ伏せたということ。
「人類の底すら無い悪意」
ネテロが死の直前に見せたあの悍ましい表情。それを目の当たりにしたメルエムがさすがに「ぞわっ」っと怯んだのは、人類総出の悪意に対して、圧倒的な力の差を一瞬にして感じ取ったからなのかもしれません。
実世界でも核兵器は「人類の底無しの悪意」と評されてもおかしくはないものです。
核が用いられれば、これまでの人類が築き上げてきた叡智など一瞬にして吹き飛ばされ無に帰すでしょう。
思えばキメラアント編のラストは、冨樫先生からの現代社会に対する警鐘だったのかも知れないですね。
まぁとにかく話をまとめると、キルアが「俺、毒とか効かないんだよねー」とイキっていたのはちょっと話盛りすぎの厨二病小僧でした。ということに。
いくらキルアが鍛えてるとは言っても、ちょっとそれはチートすぎぃ!